機能物質化学研究室 
Yamazaki - Adachi Laboratory
山口大学大学院 創成科学研究科 地球圏生命物質科学系専攻 化学コース
山口大学 理学部 生物・化学科 化学コース
Functional Material Chemistry Laboratory
Graduate School of Science and Technology for Innovation, Yamaguchi University
Yamaguchi 753-8512, Japan
Research


教授:山崎鈴子(やまざき すずこ)
Prof. Dr. Suzuko YAMAZAKI


  「光触媒」という言葉を聞いたことがありますか。植物が行っている光合成で重要な働きをしている葉緑素(クロロフィル)も光触媒ですが、身のまわりの実用化製品に使用されている光触媒のほとんどは二酸化チタンです。この物質には、大気浄化・脱臭・抗菌・防汚 等の機能があり、これらの機能を利用することで、汚染された環境を浄化することができます。
  私は、もともと錯体化学の出身であり、学生時代はルテニウム金属錯体やポルフィリン錯体を用いた光化学反応について、研究を行っていました。米国ウイスコンシン大学のProf. Marc A. Anderson教授の下で博士研究員をしていた1991年に、土壌や地下水の汚染物質であるトリクロロエチレンなどの揮発性有機塩素化合物の分解・無害化を目的とした米国エネルギー省のプロジェクトに従事しました。その際、実用的に利用できる光触媒として二酸化チタンの研究を開始しました。当時は、ゾルーゲル法で多孔質な二酸化チタンペレットを合成し、実験室での反応条件の最適化に1年間を費やし、作成した反応装置を持ち込んで、ノースカロライナ州とジョージア州の州境にあるサバナ川流域で汚染土壌の浄化のフィールドデモンストレーションを実施しました。そして、土壌から吸引された高濃度のテトラクロロエチレンやトリクロロエチレンの分解に成功しました。毎日、実験を行いながら、プロジェクトリーダーとして現地の地質学者から情報を得たり、月1回の報告書提出や成果発表会に忙殺されていた毎日でしたが、非常に充実した研究者生活であり、得たものは大きかったです。今は、そのときの経験を活かした研究室運営を心がけています。
  1993年1月に山口大学教養部化学教室に就職しました。1996年の教養部廃止に伴い、理学部に配属され、研究室所属の学生を持てるようになり、二酸化チタン光触媒の研究を再開しました。現在は、二酸化チタンだけでなく他の酸化物半導体、金属、あるいは錯体との複合化光触媒、疎水性場を導入した表面修飾型光触媒の研究を行っています。また、ペレット型だけではなく、ゾルや薄膜状にした光触媒を使った研究も行っています。さらに、ゾルーゲル合成法を利用して、金属イオンを取り込む薄膜や色素増感型太陽電池に適した酸化チタン薄膜の研究も行っています。
  現在のテーマは、以下の通りです。

  • 有機塩素化合物の分解や物質変換に役立つ光触媒の開発
  • 色素増感型太陽電池のための多孔質酸化チタン薄膜の作成
  • 表面修飾型光触媒の開発
  • 銅担持光触媒薄膜の開発
  • 酸化タングステンゾルの光機能性の研究
  • シリカに固定化したポルフィリン錯体の合成
  • 金属イオンを取り込める二酸化チタン薄膜の合成


これらの研究テーマを通じて、二酸化チタン光触媒よりも高活性な光触媒や、我々の生活に役立つ機能性材料の開発を行っていきたいと考えています。

 

准教授:安達健太(あだち けんた)
Assoc. Prof. Dr. Kenta ADACHI

 

「固体は神が創り給うたが、表面は悪魔が創った」とは、排他律の発見者Wolfgang Pauliの言葉です。原子が結晶格子上に整然と並び、周期境界条件を適用して理論的にきれいに取り扱うことのできる「固体」は神々しく美しく見えますが、境界条件を破綻させ、理論による解析を阻む「表面」は、あたかも悪魔が創ったように複雑怪奇に見えたのでしょう。しかしながら、その怪奇性こそが正に表面・界面の特長そのものであり、そこから数多くの興味深い現象が生み出されています。これらの表面・界面現象には、化学工業や環境浄化プロセスなどで使用されている触媒反応や吸着分離現象などが含まれており、その重要性は計り知れません。
  我々の研究グループは、
「表面・界面」を研究対象とし、表面・界面における化学反応、および表面に形成される特徴ある低次元物質の物性、特異的化学反応に着目しています。また、新たな分析・解析手法を考案、そして駆使して表面・界面化学研究を進めています。

現在の研究テーマは以下の通りです。

  • 表面における有機化合物の低次元構造の構築
  • 表面色素集合体の生成機構とキラル発生機構の解明
  • ナノ粒子・クラスターを用いた生体分子センシング技術の開拓
  • 無機酸化物半導体の表面増強フォトクロミズム効果の解明
  • ゾル-ゲル反応技術を基盤とした有機/無機ハイブリッド素材の開発
  • 環境対応型アルコキシシラン樹脂硬化触媒の開発


   Surfaces are ubiquitous in nature. Essentially, of everything we see around us, we observe the exposed surface. Surfaces define the boundary with the surrounding environment and influence interactions with that environment, and so it is no surprise that surfaces and interfaces have been intensely studied. We are confronted with interfaces almost every day through phenomena like corrosion, tarnishing of metals, friction, lubrication of moving parts,adhesives, surface tension in liquids and a variety of heterogeneous chemistry in atmospheric (e.g., aerosol chemistry), geological (e.g., mineral oxide-water interfaces) and biological processes.
   There is a major challenge associated with obtaining a comprehensive understanding of the complex physics and chemistry of interfaces, owing to the difficulty in probing a few angstroms of matter. Nobel Laureate Wolfgang Pauli once said,
God made the bulk; the surface was invented by the devil. Pauli explained that the diabolical properties of surfaces were due to the simple fact that surface atoms do not have an isotropic environment: they interact with three different types of atoms: those in the bulk below, other atoms from the same surface, and atoms in the adjacent phase. As a result, the properties of surface atoms are very different from those in the adjacent bulk media. With intense experimental pursuits and the advent of a wide variety of surface techniques over the past 50 years, like transmission electron microscopy, low energy electron diffraction, scanning tunneling microscopy, atomic force microscopy, neutron reflectometry, neutron scattering and X-ray diffraction , complemented by powerful molecular dynamics simulation studies, our understanding of surfaces has been radically enhanced, as testified by a variety of emergent surface technologies and a better control over the variety of fundamental interfacial phenomena observed in nature.
   Nowadays, my research covers areas ranging from the optical and spectroscopic properties of
organic/inorganic hybrid nanoparticles and clusters, and the design, assembly and use of nanoparticle-tagged biomolecules as analytical tools for novel sensing, imaging and diagnostics.


『NIPPON』ってどんなかたちの国? 

 

2008年10月に理工学研究科 環境共生化学に着任致しました。2000年に博士前期課程を修了後化学メーカーに就職、産官学の“産”において研究開発活動を続けて参りました。その間、社会人ドクターとして博士後期課程を修了することができ、今回ご縁により“学”において教育・研究を受け持つこととなりました。
 「日本人は、いつも思想は外からくるものだとおもっている。(中略)そのくせ思想への憧れはある。日本の場合、思想はたぶんに書物のかたちをとってきた。奈良朝から平安初期にかけて、命を賭して唐との間を往来した遣唐使船の目的が、主として経巻書物を入れるためだったことを思うと、痛ましいほどの思いがする。」
 これは、司馬遼太郎の『この国のかたち』(文藝春秋)の書き出しです。私がこれまで生業としてきた“科学”という分野においても、その思想(概念)は欧米からの発信がほとんどであります。果たしてどこに我が国発の科学概念を生むチャンスがあるのでしょうか?21世紀は“科学”だけに限らず、すべての分野・産業において常に世界を意識しなければいけない時代です。世界における自分達のポジション・役割を正確に把握し、生み出した結果・成果をタイムリーに世界に発信していかねば、時代に取り残されていく厳しい時代です。

「世界」を合言葉に、学生のみなさんに夢を持って大学での勉強・研究活動に取り組んでもらえるよう全力でサポート致します。

(2008年12月執筆)
   

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